COLUMN
株式会社と合同会社、初めての起業ならどちらを選ぶべきか
2026.11.01
会社の設立手続きを調べ始めると、まず目に入るのは「合同会社は設立費用が安い」「決算公告が不要」といったコスト面の情報です。費用の差はすぐに分かる一方で、その差額と引き換えに何が変わるのかは、なかなか整理された形では出てきません。
法人を設立するということは、これから何年も付き合っていく意思決定の仕組みを選ぶということでもあります。金額だけで決めてしまうと、数年後に判断のやり直しが必要になることがあります。
このコラムでは、合同会社と株式会社のどちらを選ぶべきか、解説します。
まず、選択肢は2つに絞られる
会社法上、会社には次の4種類があります。
| 項目 | 株式会社 | 合同会社 | 合資会社 | 合名会社 |
|---|---|---|---|---|
| 出資者の責任 | 有限責任 | 有限責任 | 一部が 無限責任 |
全員が 無限責任 |
| 令和7年 設立件数 |
100,165件 | 45,161件 | 15件 | 16件 |
| 構成比 | 68.9% | 31.1% | 0.01% | 0.01% |
| 検討対象 | ○ | ○ | × | × |
(出典:法務省「登記統計」令和7年 商業・法人登記(年計表)第32表「会社及び登記の種類別 会社の登記の件数」より)
合名会社と合資会社には、無限責任を負う出資者が必要です。無限責任とは、例えば会社が借入金を返済できなくなった場合などに、出資した金額を超えて個人の財産で弁済しなければならない可能性があるということです。このリスクを負ってまで選ぶ積極的な理由は、ほとんどなく、実際、令和7年に設立された会社のうち合名会社と合資会社は合わせても50件に届かず、株式会社と合同会社が99%を占めています。
したがって、これから起業する方が検討すべきは、有限責任である株式会社と合同会社の2択ということになります。ここから先は、この2つを比較していきます。
判断材料① 設立と運営にかかるコスト
設立時にかかる実費
設立時に必ず発生するのは、登録免許税と定款に関する費用です。
| 費用項目 | 株式会社 | 合同会社 |
|---|---|---|
| 登録免許税 | 15万円〜 | 6万円〜 |
| 定款認証手数料 | 1.5万〜5万円 | 不要 |
| 収入印紙代 | 電子定款の場合不要 (紙の場合は4万円) |
電子定款の場合不要 (紙の場合は4万円) |
| 合計の目安 | 約20万円 | 約6万円 |
登録免許税は「資本金×0.7%」で計算され、この金額が最低額(株式会社15万円・合同会社6万円)に満たない場合は最低額が適用されます。株式会社ではおよそ2,143万円、合同会社ではおよそ857万円を資本金が超えたところで、この最低額を上回り始めます。小規模な設立であれば、まず最低額がそのまま負担額になると考えて差し支えありません。
株式会社の定款は公証人の認証を受ける必要がありますが、合同会社にはこの制度自体がありません。認証手数料は資本金の額に応じて3万円・4万円・5万円ですが、資本金100万円未満など一定の要件を満たす小規模な設立であれば、1.5万円に軽減されます。
差額にすると、設立時点の実費でおよそ14万円ほど、合同会社のほうが安く済みます。このほかに司法書士等へ依頼する場合の報酬が加わりますが、報酬の水準に会社形態による大きな差はありません。
毎年かかるコストにも差がある
設立時だけでなく、その後も続く負担に差があります。
| 項目 | 株式会社 | 合同会社 |
|---|---|---|
| 決算公告 | 義務あり (官報掲載なら 年7万〜8万円) |
義務なし |
| 役員の任期 | あり(最長10年) 満了ごとに登記と 登録免許税1万円 |
なし |
| 住民税の 均等割 |
最低年7〜8万円 | 最低年7〜8万円 |
決算公告について補足すると、定款で公告方法を「電子公告」と定め、自社サイトに掲載する方法を選べば、掲載費用そのものはかかりません。実務上、決算公告を行っていない中小企業も少なくありませんが、本来は法律上の義務です。
役員の任期は、金額としては大きな負担ではありません。ただし任期を10年に設定していると10年に一度のことなので失念しやすく、登記を怠ると過料の対象になります。
均等割は、会社形態にかかわらず、赤字であっても毎年発生します。資本金等の額が1,000万円を超えると年18〜20万円に上がるため、これは会社形態ではなく資本金の決め方の問題です。
なお、資本金の決め方については会社設立時の資本金はいくらにすべきか?決め方の判断軸にて解説しております。
インターネット上で語られる「合同会社は安い」という情報は、主にこのコスト面を指しています。これ自体は事実ですが、判断材料の一つに過ぎません。
判断材料② 対外的な信用力
コストの次に検討すべきは、対外的にどう見られるか、という点です。
一般に、株式会社のほうが認知度・信用度で有利とされる場面があります。金融機関からの融資審査、取引先の与信判断、契約条件の交渉などで、株式会社であることが有利に働く場合があります。
見落とされがちな2つの点
一つは、求人票に会社形態が表示されることです。求人票や採用サイトには「株式会社〇〇」「合同会社〇〇」という表記が入ります。転職活動に慣れていない求職者ほど、「合同会社」という表記を見慣れておらず、「あまり聞いたことがない」「ちゃんとした会社なのだろうか」と、実態とは関係のない不安を感じてしまうことがあります。当面は一人で事業を続ける想定であれば影響は限定的ですが、人を雇う段階になったときに、この印象差が採用活動にわずかな摩擦を生む可能性はあります。
もう一つは、代表者の肩書きが「代表取締役」ではなく「代表社員」になることです。合同会社に取締役という役職はありません。名刺も契約書も登記簿も、表記は代表社員になります。社内的に「社長」と名乗ること自体は自由ですが、公的な書類での表記は選べません。これによる実務上の不利益が生じる場面は多くありませんが、対外的な印象を気にされる方には、設立前に知っておいていただきたい点です。
「合同会社=信用が低い」とは言い切れない
一方で、会社形態だけで信用が決まるわけではありません。実際には、アマゾンジャパン合同会社のように、規模の大きい企業が合同会社を選んでいる例もあります(その理由は後ほど触れます)。金融機関や取引先が最終的に重視するのは、会社形態そのものよりも、事業内容や財務内容、実績です。
とはいえ、実務上は「合同会社」という表記を見た瞬間に身構える金融機関が一部に存在するのも事実で、この点は地域や取引先によって温度差があります。断定的に「不利」と捉えるのではなく、「株式会社であればこの摩擦を避けられる」という程度の理解にとどめておくのが妥当です。
判断材料③ 決め方の自由度は諸刃の剣
3つ目は、会社の中の意思決定と利益配分の仕組みです。ここが、合同会社を理解せずに選ぶと、後になって困ることが多い部分です。
会社法上の原則を並べると、次のようになります(会社法では、合同会社の出資者のことを「社員」と呼びます。従業員のことではありません)。
| 項目 | 株式会社 | 合同会社 |
|---|---|---|
| 議決権 | 出資比率に応じる | 1人1票が原則 |
| 利益の配分 | 出資比率に応じる | 定款で自由に設計 (定めがなければ出資比率) |
| 定款の変更 | 特別決議 (議決権の3分の2以上) |
社員全員の同意 |
自由に決められるが、決めなければ出資比率になる
合同会社は、利益の分け方も、意思決定の方法も、定款で自由に設計できます。出資した金額の割合と関係なく、貢献度や役割に応じて利益配分を決めることも可能です。これだけを聞くと、非常に柔軟でメリットの大きい仕組みに思えます。
ただし、これはあくまで「決めておけば」自由に設計できるという話です。会社法上、利益配分について定款に定めがない場合は、各社員の出資の価額に応じて分配することになっています。つまり、何も決めずに設立すると、結局は出資額に比例するという、株式会社と変わらない結果になります。合同会社の柔軟性は、自動的に手に入るものではなく、定款に明文化して初めて機能するものです。
変更するには、社員全員の同意が必要
そして、この自由度には裏があります。表の最後の行、定款で決めた内容を後から変更するには、原則として社員全員の同意が必要だという点です。
株式会社であれば、定款の変更は株主総会の特別決議、つまり議決権の3分の2以上の賛成で行えます。出資比率に応じて議決権と配当が決まるという既定のルールが会社法に用意されており、意見が割れても、多数派の判断で前に進める仕組みがあります。
一方、合同会社では、出資額の大小にかかわらず、一人でも反対すれば定款を変えられません。持分をわずかしか持たない社員も、実質的な拒否権を持つことになります。当初の取り決めが事業の実態に合わなくなったとき、身動きが取れなくなる可能性があるということです。
したがって、複数人が経営に関わる可能性が少しでもあるなら、合同会社を選ぶこと自体が問題なのではなく、利益配分と意思決定のルールを、社員が自分一人しかいないうちに定款で明文化しておくことが前提条件になります。全員の同意が必要になるのは、あくまで後から変更する場合の話です。この一手間を惜しまなければ、合同会社の柔軟性はメリットとして機能します。
判断材料④ 代表者の自宅住所が公開されるかどうか
会社を設立すると、代表者の住所が登記事項として公開されます。株式会社であれば代表取締役、合同会社であれば代表社員の住所です。登記事項証明書は誰でも取得できるため、請求されれば第三者にも見られる情報になります。
2024年10月から、この住所のうち市区町村より細かい部分を登記事項証明書に表示しないこととする措置が始まりました。ただし、この措置の対象は株式会社に限られ、合同会社は対象外です。
| 項目 | 株式会社 | 合同会社 |
|---|---|---|
| 代表者の住所の登記 | あり | あり |
| 住所非表示措置 | 利用できる | 利用できない |
なお、非表示措置は自動的に適用されるものではなく、設立登記と同時に法務局へ申し出る必要があります。詳しくは会社を設立すると、住所はどこまで公開されるのかで解説しています。
代表者住所を非公開としても、本店住所は公開されます。
判断材料⑤ 外部から出資を受ける計画があるか
最後に、当てはまる方にだけ関係する話を一つ挙げておきます。
合同会社は株式を発行できません。そのため、ベンチャーキャピタルなどから出資を受ける、ストックオプションを発行する、将来的に上場を目指すといった選択肢が取れなくなります。こうした計画があるのであれば、迷わず株式会社です。
一方、自己資金と金融機関からの借入で事業を回していく想定であれば、この点は判断に影響しません。融資の受けやすさについて、会社形態による制度上の差はないためです。
税務上の違いはあるのか
会社形態による有利不利はない
会社形態を選ぶ際、「税金面ではどちらが得か」という疑問を持たれる方も多いのですが、法人税・消費税・社会保険の扱いは、株式会社であっても合同会社であっても基本的に変わりません。役員報酬に定期同額給与の制約がかかる点も、資本金1,000万円未満であれば設立当初に消費税の免税期間がある点も同じです。この2つを選ぶ上で、税務は判断材料にならないと考えて差し支えありません。
ただし、「会社形態そのものに税務上の有利不利はない」ことと、「設立時に税務の検討が要らない」ことは別の話です。会社形態を決めるとき、同時に資本金をいくらにするか、決算月をいつにするかも決まります。
資本金は消費税の免税や毎年の法人住民税に影響し、決算月は免税期間として実際に使える月数を左右します。いずれも設立後に変えるには手間がかかる部分で、こちらは税務の領域です。
大企業が合同会社を選ぶ理由
例外的に、税務が会社形態の理由になる場合があります。先ほど触れたアマゾンジャパン合同会社のような、外資系企業の日本法人です。
米国の税制には、一定の外国事業体について課税上の取扱いを選択できる仕組みがあり、日本の合同会社はこの選択の対象になり得ます。これを選択すると、日本法人の損益を米国側の申告に直接合算できる、いわゆる「パススルー」の扱いが可能になります。本国側でグループ全体の損益をどう取り込むかという観点から、合同会社の形態が選ばれている面があります。日本の株式会社は、この選択の対象外とされています。
税務以外にも、外資系企業ならではの理由があります。合同会社には決算公告の義務がなく、また大会社である株式会社に義務づけられている内部統制システムの整備義務もありません。日本国内の開示・統制ルールに縛られず、本国の体制のまま日本法人を運営できるという点は、グローバル企業にとって合同会社を選ぶ実務上のメリットになります。
つまり、大企業が合同会社を選んでいる背景には、国内で起業する方には当てはまらない事情があるということです。「大手も使っているから安心」という理由づけは、判断材料としてはあまり意味を持ちません。
結局、どちらを選べばいいのか
ここまでの材料を、想定される状況ごとにまとめます。
一人で始めて、当面は一人で続ける予定なら
合同会社でも構いません。設立時の実費が10万円以上安く、決算公告も役員の任期もありません。取引先が一般消費者中心であれば、なおさら差は小さくなります。
ただし、代表者住所が公開されることに抵抗がある場合は、株式会社を選んで住所非表示措置を使うという判断もあり得ます。この一点だけは、費用差と並べて検討してください。(株式会社でも本店住所は公開されます。)
配偶者や友人と2人で始めるなら
株式会社を勧めます。合同会社でも成り立ちますが、その前提として、利益配分と意思決定のルールを定款に文章として落とし込む作業が必要になります。創業準備で最も忙しい時期に、時間を割いて向き合わなければならない負担です。株式会社であれば、出資比率に応じて決まるという既定のルールがすでに会社法に用意されているため、この作業自体が要りません。
さらに、関係がこじれたときの出口にも差があります。株式会社であれば、取締役を解任するかどうかは株主総会の決議で決められます。一方、合同会社で社員を退社させるには(任意の辞任を除いて)「除名」という手続きが必要で、他の社員の過半数の決議に加えて、訴えを起こして裁判所に認めてもらう必要があります。関係性を前提に始めた合同会社ほど、いざというときに身動きが取りづらい、という点は覚えておいてください。
数年内に正社員を雇う見込みがあるなら
株式会社を勧めます。求人票の表記による摩擦は小さなものですが、採用は最初の一人が最も難しく、その一人を逃す理由は少ないほうがよいと考えるためです。
外部から出資を受ける計画があるなら
株式会社の一択です。他の材料と比較する余地はありません。
なお、合同会社から株式会社への組織変更は可能です。ただし官報公告と登記が必要で、実費だけで十数万円、公告期間として1か月以上を見ておく必要があります。
結局のところ、「どちらが安いか」という一点で決めるのではなく、「自分がこれから運営していく会社の決め方を理解し、必要な取り決めを先にできているか」という視点で選んでいただくのが、後悔の少ない選び方だと考えます。
法人化そのものを検討されている段階であれば、会社形態の選択も含めて、早めにご相談いただくことで、選択肢が残っているうちに整理することができます。当事務所では開業・会社設立支援を行っており、無料相談も承っておりますので、判断に迷う点があればお気軽にお問い合わせください。
本記事は執筆時の税制・法制度に基づいています。
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